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<令和3年度 第2回 図書館リレーインタヴュー 社会福祉学科 准教授 吉池毅志先生へのインタヴュー>

こんにちは。図書館です。
後期授業が始まり、大学生活が再開されましたね。

さて、図書館情報を積極的に配信する取り組みとして、
教員のおすすめ本の記事を大学HPで配信することになりました!

今回は、今年度の第2回目の配信となります。
第2回目は、社会福祉学科 准教授 吉池毅志先生のおすすめ本を紹介いたします。
吉池毅志先生、図書館リレーインタヴューへのご協力ありがとうございました。



<本の紹介>

学生のみなさんへ

 本は好きですか?わたしにとって「本」は「旅」と同じようなもので、いろいろな世界と出会うことが楽しみの一つです。毎週、新聞の書評欄を読むのが好きで、書評がなければ出会うことがなかった本も多くあります。この文に目をとめてくださった方に私が出会った本をお伝えできることは嬉しく、旅の土産話のような紹介をさせてもらいます。
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せかいをうらがえしてみる

 文化人類学者の辻信一さんによる『スロー・イズ・ビューティフル』には、わたしたちの忙しいくらしをもう一度見つめ直してみようというメッセージが込められています。かつてアメリカで「ブラック・イズ・ビューティフル(黒は美しい)」というメッセージが、ブラック・ムーブメントのなかで既存の価値観をひっくり返そうとしたように、同書は猛スピードで進み続ける文明の価値観を、真逆から問い直す本です。もくじを見るだけで、気づくことがあります。ページを進めれば、時間どろぼうとのたたかいを描いたミヒャエル・エンデさんの『モモ』や、北海道浦河町にある回復のコミュニティ「べてるの家」などにつながり、ミスチルや坂本龍一さんらによるapバンクなどの社会活動にまで広がってゆきます。べてるの家と向谷地生良さんの共著『安心して絶望できる人生』では、「弱さを絆に、苦労を取り戻す」を合言葉に、自分の精神症状などについてユーモアを加えながら仲間とともに研究してゆく姿が描かれています。精神疾患や精神障害というテーマを考えてゆくうえで、「過労死」を生み出すような、あまりにも早い時間の流れを前提にした文明に対し、人がいのちを落とさずに人らしく生きられるヒントを教えてくれています。
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わたしにできることをしてみる

 先述の本で新たに見えてきたせかいは、強くて大きくて途方に暮れるかもしれません。辻信一さんらによる『ハチドリのひとしずく』の中では、一羽の小鳥が水を運びます。アンデスに伝わる小さな話を絵本にした一冊です。「そんなことして何になる」と言われてしまう空気の中で、「わたしは、わたしにできることをしているだけ」と、「一滴の雫」を運ぶハチドリの姿。このシンプルなメッセージは、ジャン・ジオノさんの『木を植えた男』のようにわたしたちの心を動かします。グレタ・トゥンベリさんや、中村哲さんの個人の行動が連想されます。詩人の茨木のり子さんは『個人のたたかい』や『詩のこころを読む』のなかで、大きな流れのなかで立つ、個人の「立ち方」を書いてくれています。村上春樹さんは『1Q84』を書いたのちにエルサレム賞を受賞し、「卵と壁があるなら、わたしは卵の側に立つ」というスピーチをしました。このようなテーマに関心のある方は、村上作品につながってもよいかもしれません。多数ではなくても個人としてできることをする、このような小さな覚悟を勇気づけてくれる作品として、天童荒太さん・文、荒井良二さん・絵の『どーした、どーした』は、わたしが一番お勧めしたい絵本で、何人かに贈ってきた一冊です。主人公のゼン君は、なんでもかんでも顔をつっこんで「どーした?」と声をかけてゆくこどもで、おとなからは少し煙たがられています。けれど、そんなゼン君が、公園で裸足のこどもと出会い、「どーした?」と声をかけるところから、話は大きく展開してゆきます。この文を読んでくれた方には、一番読んでほしい一冊です。
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たにんのくつをはいてみる

 誰かの相談に乗るような仕事を考えている方には、ヨシタケシンスケさんの『リンゴかもしれない』をお勧めします。りんごだけれど、本当にりんごなのかな?りんごかもしれないこれは、ひょっとしたら?と、目の前のひと・もの・ことを、いったん保留して見つめてみる姿勢は実践のヒントになります。わたしは長年電話相談を続けてきたなかで、この「りんごかもしれない」の仮説思考の幅広さが、電話相談を受けるなかで重ねてきた「・・・かもしれない」の思考経験とぴたりと重なりました。この辺りのことは、向谷地さんの文章でもよく描かれていて、身体が半分東京に行ってしまった人、UFOから転落して骨折してしまった人など、「妄想」とひとくくりにされがちな生活世界を経験されている方々と出会う際、自分が捉えている世界をちょこっと脇に置くことの大切さを考えさせてくれます。近年話題となった、ブレディみかこさんの『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』では、イギリスの小学校に通う日系の息子さんが、人種差別や貧富の格差にさらされた毎日をくらしています。そのなかで、少年は「自分とは違う意見をもつ人々の気持ちを想像してみることなんだって。つまり、他人の靴を履いてみること」と話します。自分がその人の立場だったらどうだろうかと想像することで、その人の感情を分かろうとする能力「エンパシー」は、この本をきっかけに時の言葉となりました。他方、精神科医の香山リカさんは、全国を旅して7人の世界と出会い、対話し、『ヒューマンライツ 人権をめぐる旅へ』を著しています。差別や排除や暴力が生まれる場に立つ人に会いに行き、まるで「その人の靴を履いてみよう」とした、リアルな対話が記録されています。「踏まれた」側からソーシャルワークを考えてきたわたしも、第一情報に触れるため、それぞれの当事者に会いに行くことを大切にしてきました。会いに行くことが難しいいま、たくさんの本を通じて新しい世界と出会ってゆこうと思います。
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                                      (社会福祉学科 准教授 吉池毅志)



吉池先生の写真で先生がお持ちになっている本は、吉池先生が執筆された本です。
図書館にも本があって貸出もできますので、ぜひ、読んでみてくださいね!
栄留里美、鳥海直美、堀正嗣、吉池毅志 /『アドボガシーってなに?』/ 解放出版社 
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