大学からのお知らせ

トピックス

<令和2年度 第2回 図書館リレーインタヴュー理学療法学科 学科長 山野薫教授へのインタヴュー>

※本記事に掲載している書影はすべて出版元の使用許諾のもと使用しています。


こんにちは。図書館です。

本日は、図書館リレーインタヴュー第2弾をお届けします。
今月は、理学療法学科 学科長 山野薫先生からのおすすめの図書についてお話を伺いました。
山野先生、ありがとうございました。

tosyoR020822-1.png
理学療法学科 学科長 山野薫先生

理学療法学科は、理学療法士(Physical Therapist:PT)を目指す学生が在籍する学科になります。
理学療法士は主に病院に勤務し、医師の指示の下で寝返り~起き上がり、立ち上がり、歩行などの
基本的動作の改善を目的に介入を行う職業です。
今回、理学療法学科ならではの本を紹介いただきましたので、早速内容に入っていきましょう!

Q:「今学期は、新型コロナウイルス感染症の影響で遠隔授業が続きました。
そのような中、理学療法学科の1年次生からは解剖学の勉強で困っているとの声を聞いています。
山野先生、1年次生へ何かおすすめの図書はありますか?」

A:高校を卒業したばかりの1年次生では、「解剖学」は難解用語の連続です。
理学療法士免許取得の大志を抱いていても、勉強に対して戦意喪失した~といった発言も頷けます。
しかしながら、理学療法士として仕事をしていく上で、解剖学用語を含む医学用語は、
医療従事者の共通用語ですので、避けては通れない学問です。
そこで、1年次生には、どんなに緩い方法(語呂合わせでも、数え歌でも)でも構わないので、
用語や語句を覚えてしまうことが有効な方法です。小学校2年生の時に『九九』を覚えたときと同じ感覚です。
具体的には「筋肉かるた(有限会社ラウンドフラット)」、「アナトミーカード筋肉編(有限会社トライ・ワークス)」をおすすめしています。

tosyoR020822-2.png
筋肉かるた(有限会社ラウンドフラット)

tosyoR020822-3.png
アナトミーカード 筋肉編(有限会社トライ・ワークス)

前者の2つは書籍ではありませんが、なかなか面白くできていて、テーブルゲームとして遊びながら、解剖学用語を覚えられます。
また、「のほほん解剖生理学(永岡書店)」は、イラストが楽しく、コミックをめくるように読み進められるので、
解剖学や生理学が身近に感じられます。
楽しく学べることから始めては、、、と考えています。
tosyoR020822-4.png
のほほん解剖生理学 玉先生,大和田潔(著),永岡書店

Q:「学習を進める上でリハビリテーションと理学療法の意味分けの混同が起きると、
勉強に躓くきっかけになるとお聞きしています。何かアドバイスはありますか?」

A:理学療法士の身近な用語である「リハビリテーション」は、一般に"リハビリ"という語に略されて、
インターネットや報道等で使用されていることが多くみられます。
スポーツ選手が怪我を克服して、競技復帰した~といった報道がまさしくそれにあたります。
本来、「リハビリテーション」は『全人間的復権』と邦訳され、人として社会の中で生きていくにあたって、
適した回復(身体面・精神面・経済面・社会面等々にわたって、、、)をすることです。
"機能訓練"や"運動療法"という用語に直訳され、狭義にとどまるものではありません。
『全人間的復権』は、「その方(対象者)がそつなく暮らせるための働きかけすべて」ということもでき、
その働きかけの中の具体的手段の一つとして、「理学療法(学)」があります。
私たち理学療法士は、対象者(患者さんや利用者さん)の「リハビリテーション(全人間的復権)」を
支援するプロフェッショナルです。
たとえ、理学療法士が介入することの手段の多くが"機能訓練"や"運動療法"であったとしても、
決してそのことを"リハビリ"と括ってしまってはいけません。
例えば、対象者に合致した車いすの選定や手すりを取り付けるような在宅改修も理学療法士の仕事です。
理学療法士は、「その方(対象者)がそつなく暮らせるための働きかたすべて」の一つ一つを丁寧に考えて、
提供する仕事だと考えています。
洗練された理学療法士になって活躍するためには、当学科で学びを進める中で、
理学療法士が対象者へ提供できることを整理していくこと(学生時代は、整理して勉強すること)だと考えています。

Q:「行うはずだった臨床実習が延期または中止になった学生も数多くいます。
それによって不安に思う学生もいるのですが、何かおすすめの本はありますか?」

A:理学療法学は実学ですので、「臨床実習」理学療法士養成のカリキュラムの中でも重要な位置を占める科目といえます。
今期は特に、新型コロナウイルス感染拡大防止を大前提に行動しなければならないことはご周知のとおりで、
結果として臨床実習が中止(学内代替演習)となりました。
学生さんたちが、臨床実習に赴くことができないのは、大変悩ましいことです。
臨床実習の体験を書物に補えることは、毛頭考えていませんが、下記の書籍はいかがでしょうか。
「"臨床思考"が身につく運動療法Q&A(医学書院)」
「夢にかけた男たち ある地域リハの軌跡(三輪書店)」

tosyoR020822-5.png
"臨床思考が身につく運動療法Q&A 高橋哲也(著),医学書院

tosyoR020822-6.png
夢にかけた男たち ある地域リハの軌跡 河本のぞみ,石川誠(著),三輪書店

前者は、臨床で実施する運動療法について、理学療法士が唱えるエビデンスがたくさん掲載されています。
後者は、地方都市で展開する"地域リハビリテーション"を題材に、医療機関や介護保険施設等々の組織としての立場や
連携のあり方がよく理解できる書籍です。

Q:「3年次生は、11月の臨床実習に備えて今まで学んだ解剖学や運動学、動作分析などの知識を統合することが求めれます。
臨床実習前におすすめの本があれば教えてください。」

A:解剖学、運動学、動作分析を統合するには、正常な動作分析の知識とともに機能破錠を起こした病態の把握が必要です。
「姿勢・動作・歩行分析(羊土社)」「症例動作分析ー動画から学ぶ姿勢動作(株式会社ヒューマン・プレス)」といった
書籍を紹介します。これらの書籍は、わかりやすい解説とWeb動画も付いていますので、理解が深まります。

tosyoR020822-7.png
姿勢・動作・歩行分析 臨床歩行分析研究会(監),羊土社

tosyoR020822-8.png
症例動作分析ー動画から学ぶ姿勢と動作 隅元庸夫(著),株式会社ヒューマン・プレス

Q:「4年次生は、今年度の新型コロナウイルス感染症対策の件で臨床実習の経験が少ない状況で理学療法士として
勤務することになります。新人PTになる際に助けてくれる本などはありますか?」

A:今年度の4年次生は、新型コロナウイルス感染拡大防止の対策のため、臨床実習ができませんでした。
来春、新人理学療法士として働くには、圧倒的に経験が足りません。日本全国の医療職種の養成校の4年次生が同条件です。
少しでも、患者さんや医療機関の立場に接することが必要と考えています。
「壊れた脳 生存する知(講談社)」という本を紹介します。
著者は、山田規畝子さんという方で、若くしてモヤモヤ病によって脳出血を患った整形外科医ですが、
内容は患者さんの言葉(表現)で症状のことが書かれています。

tosyoR020822-9.png
壊れた脳 生存する知 山田規畝子(著),講談社

三度の脳出血で高次脳機能障害となった患者が、戸惑いながらも、壊れた脳で生きる日常を
綴った諦めない心とユーモアに満ちた感動の手記です。
「靴の前後が分からない」、「時計が読めない」、「世界の左半分に気が付かない」といった臨床症状は、
専門書でも理解しがたい内容ですが、本書は著者自らが医師であることにより、わかりやすく的確に
描写してくれていますので、高次脳機能障害の初学者に適した"医学書"ともいえます。

Q:「各学年におすすの図書について、詳しく教えていただきありがとうございました。
最後に、学科を越えてぜひ読んでほしい本があれば教えてください。」

A:本学は、保健医療のみではなく、「社会福祉学」、「心理学」、「こども教育」等の幅広い学科を備える
総合大学です。私は、常々、学生に「理学療法士の対象者は、『ゼロ歳から100歳まで』だよ」と話しています。
どの世代の方が、私たちの対象者となっても、自身の専門領域の用語をしっかりと説明し実践できる
"対人援助の専門職"は心強い人材となります。
参考となりそうな書籍は、「リハビリテーション(岩波新書)」、「健康と医療の社会学(東京大学出版会)」、
「リハビリテーション入門(IDP新書)」などがあります。
人がこの世に生を受けて、亡くなるまでの生活(その人の生き方)を支援する職業に就こうという
本学の学生さんたちに学科を越えて広く読んでいただきたいと思います。
学生時代に出会って、感銘を受ける書籍も多くあります。ぜひ、手に取っていただきたいと思います。

tosyoR020822-10.png
リハビリテーション 砂原茂一(著),岩波書店
tosyoR020822-11.png
健康と医療の社会学 山崎喜比古(編),東京大学出版
tosyoR020822-12.png
リハビリテーション入門 大仁田仁史(著),IDP出版

<インタビューを終えて>
今回のインタビューでは、各学年におすすめの本を教えていただきました。
紹介いただいた中で、「のほほん解剖生理学」は「解剖生理は難しい・・・」と見構えず肩の力を抜いて
楽しめそうな本でした。理学療法学科の学生だけでなく、少しでも興味のある学生には
ぜひ読んでほしいですね。私も一度読んでみたいと思います。
臨床的な思考の立て方や、どのように動作を見ていくのかを理解するには、本来圧倒的な経験が必要です。
しかし今は、苦労してその道を究めた先生方が執筆された書物があり、私たちにそこへ至る道を示してくれます。
このような状況に感謝しながら、本を読み進めていきたいものですね。
学生の皆さんには、今回紹介いただいた本をぜひ活用していただきたいと思います。
山野先生、ありがとうございました。
                 (聞き手:理学療法学科 学術研究委員 助教 弓岡まみ)