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<令和2年度 第3回 図書館リレーインタヴュー 子ども保育学科(2021年4月より子ども教育学科へ名称変更予定) 柏原栄子特任教授へのインタヴュー>

※本記事に掲載している書影はすべて出版元の使用許諾のもと使用しています。

こんにちは。図書館です。
本日は、図書館リレーインタヴュー第3弾をお届けします。
今月は、子ども保育学科(2021年4月 子ども教育学科へ名称変更予定)柏原栄子先生からのおすすめ図書についてお話を伺いました。
柏原先生、ありがとうございました。
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子ども保育学科(2021年4月より子ども教育学科へ名称変更予定)は、保育士や幼稚園教諭、小学校教諭を目指す学生が在籍する学科です。
これらの職業を目指す学生に、是非、読んでもらいたい書籍を柏原先生にお伺いしました。

Q.1 学生の間に読んでおくと良い書籍はありますか?

A.1 灰谷健次郎『太陽の子』新潮文庫や『兎の眼』新潮文庫や無著成恭編『山びこ学校』岩波文庫などがおすすめです。
時代は少し遡ります。当時の生活は今ほど、物にあふれた豊かな時代ではありませんでした。
しかし、その時代の中で子ども達が、純粋に、毎日を精一杯生きている姿を綴った学校の現場をテーマにした心温まる内容です。
『兎の眼』や『太陽の子』の著者である灰谷健次郎氏は元小学校の先生でした。
また『山びこ学校』の編者である無著成恭氏は山形県の中学校の教師で「生活綴り方」の指導をまとめ著者にし、
生活綴り方運動を巻き起こしました。
人は人と触れ合う中で何を学んでいくのでしょうか。その答えがたくさん詰まっています。
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長田新編『原爆の子(上、下)』岩波文庫もおすすめです。
『原爆の子』はペスタロッチー研究の世界的権威者であった長田新先生(広島大学)が教育学者の立場から、
原爆が子ども達にどのような影響をもたらしたのかに関心を持ち、原爆を経験した子ども達の手記を集めて編纂された本です。
悲惨な内容も記されていますが、被爆者体験を通してたくましく生きようとする子ども一人一人の言葉、
生活する姿には心揺さぶられるものがあります。この本は、その後、日本をはじめ諸学国の平和教育の原動力となりました。
子どもの生命を守り、幸せを守る使命をもつ保育者、教育者になろうとしている学生さんに「平和」とは何か?を
探求できる本だと思います。
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Q.2 柏原先生は大学卒業後、保育士として9年間勤められた後、大学教員の道に進まれたとお聞きしています。
保育士としての立場や研究者の立場からおすすめの書籍はありますか?

A.2 近藤幹生『保育とは何か』岩波新書や『保育の自由』岩波新書などは良い本だと思います。
これらは「保育」に関する岩波の新書版です。
保育所の実践や保育者の養成に長年携わってこられた近藤先生が「保育」を広く社会に啓発しようとする立場から、
保育のあるべき姿を記している本だと言えます。
『保育とは何か』『保育の自由』もこの混とんとした時代の保育のあり様を模索し、追及しています。
すでに学修している内容は、その要点を確認しながら、理解しづらい箇所は飛ばしてでもよいので、一度手にとって目を通して下さい。
保育とは何か?教育とは何か?は我々にとっては、永遠の課題です。
著者の近藤先生の考えを基軸に自分はどのように考えるのかを探求してほしいと願います。
また、小林美希『ルポ 保育崩壊』岩波新書はむしろジャーナリストが今の保育の質の低下に警笛を鳴らし、
厳しく保育の課題を追求している本です。
保育の本質を探究するためには、批判的な視点も必要です。
そのような視点から、この著を開いて頂ければと思います。少し勇気が必要ですが。
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倉橋惣三『育ての心』フレーベル新書や『幼稚園真諦』フレーベル新書も是非、おすすめしたい本です。
日本の保育の先駆者である倉橋惣三氏の代表的な著者です。
倉橋惣三氏は日本の幼稚園における保育の礎を築いた東京女子師範学校の教員です。
また、附属の幼稚園に出向いて子どもの遊びに意義を見出し、その実践を通して児童中心主義の保育理論を
展開してきました。もちろん、保育に関する学術的な著者も多数出版されていますが、
まずはこの『育ての心』を手にとってほしいと思います。
子どもに纏わる随筆や言葉等が比較的短い言葉で記されています。
子どもを捉える視点として「自ら育つものを育てようとする心、それが育ての心である」この言葉は、
本書の序で記されている私が大好きな言葉です。
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心理学的な見地から子ども達を理解しようとするとするならば、
佐々木正美『子どもへのまなざし(完)』福音館書店がまずおすすめです。
児童精神科医である佐々木正美氏が記した3巻シリーズの最終巻であり、
子どもを理解したいと思う学生さんに一読して頂きたい本です。
問題を抱えたり、障がいのある子どもがともに生きていける豊かな社会を作っていくためには、
子どもを取り囲む大人が多様な人間関係の中でどのように一人一人の子どもを愛し、
接していくことが大切なのかを記した、これまた心温まる著です。
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Q3. 学生に向けて、様々な本の紹介ありがとうございました。
これらの本は、保育・教育に携わる学生だけではなく、すべての学生にとって大切な本であるように思いました。
次は、柏原先生が大切にしている書籍についても教えて頂けますでしょうか?

A.3 私の人生の宝は、幼児教育学、日本のフレーベル研究者の第一人者である荘司雅子先生から直接フレーベル教育学を学んだことや、
当時、ボウルビィの母子関係理論を翻訳した黒田実郎先生から愛着理論を学んだことです。
荘司先生とは研究員の時に出逢い、黒田先生は私の大学院での担当教授でした。
恩師である荘司先生や黒田先生から直接、当時の先進的な教育学や心理学会を通じて教育学の真髄を学べたこと、
そして先生方にご紹介頂いた教育学の各学問分野での第一人者の研究者と出逢い、
その先生が執筆された多くの名著に出逢えたことが、今日の私の貴重な出発点となりました。
本物の研究者に出逢うということは、その恩師の著書に出逢うということでした。
結果、多くの著書に囲まれた生活になりました。
そういった意味で荘司雅子『フレーベル教育学への旅』日本記録映画研究所と
J.ボウルビィ(黒田実郎、大羽蓁、岡田洋子訳)『母子関係の理論Ⅰ愛着行動』岩崎学術出版の理論を紹介したく思います。
これらの本は先ほど挙げた本より少し難しくなりますが、学生さんたちにも是非チャレンジして欲しい本です。
難解と思っていた著書も何度か読み返したり、年齢を経て読み直すと理解できることがあります。
自分の興味をもった学問分野の本物の書籍に(できればその人物にも)出逢い、学びを深めていくことは、
人生をより実りあるものにしていくのではないかと思います。
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Q.4 最後に学生に一言お願いします。

A.4 今はインターネット等の発達により、何でも簡単に情報が入手できるようになりました。
それは勿論良いことだと思います。ただ、じっくり自己と向き合い、しっかりと深く考え、
試行錯誤して多角的に理論を考え抜くという機会が減ったようにも思います。
学生さんには、表面的にわかったつもりの理解ではなく、物事の本質を見抜くちからを養って欲しいと思います。
そのためには、本をしっかり読んで、自分で考えるという経験が非常に大切です。
図書館は知の宝庫です。自分の興味・関心のある本に出逢うとともに、
まったく異なったジャンルにも目を向けることができます。そこでまた、違った発見があるかもしれません。
是非、時間があれば図書館に足を運んで下さい。雑誌の閲覧からはじめても良いと思います。
そしてまずは1冊、読破することを始めてみてはどうでしょうか。読書の秋!!

*番外編 インタヴューを終えてから柏原先生から追加で1冊、紹介がありました。
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「学生さんには、まだまだ未知の世界だと思いますが、上記の本、出口治昭『還暦からの底力』講談社現代新書
から元気を貰いました。私もまだまだ頑張りますよ」とのことでした。

(聞き手:子ども保育学科(2021年4月 子ども教育学科へ名称変更予定) 学術研究委員 助教 釣井達也)