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令和2年度 第8回 図書館リレーインタヴュー 心理学科 教授 柏尾眞津子先生へのインタヴュー

※本記事に掲載している書影は出版元の使用許諾のもと使用しています。

こんにちは。図書館です。

本日は、図書館リレーインタヴュー第8弾をお届けします。
第8弾は、図書館長の心理学科 柏尾眞津子教授のインタヴューをお届けいたします。
さて皆様、「建学の精神」を、ご存じでしょうか?「建学の精神」とは、大学設立の理念です。
本学の建学の精神は、「敬・信・愛」です。
今回は本学の建学の精神である「敬・信・愛」をキーワードとし、「私が尊敬の念を抱いた本」「私が人を信じようと思った本」
「私が愛を感じた本」を柏尾先生に選書していただき、選書されたおすすめのポイントについてもお伺いさせていただきました。

柏尾先生、インタヴューへのご協力ありがとうございました。

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インタヴューは柏尾先生の研究室で行いまいました!
まず、先生の研究室に入ると、机の上にたくさんの本が並べられていました。
素晴らしい本ばかりが並んでいるっ!と感じたのが最初の印象でした。
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それでは、柏尾先生へのインタヴューを始めていきたいと思います。

Q:本学の建学の精神である「敬・信・愛」をキーワードとし、
「私が尊敬の念を抱いた本」「私が人を信じようと思った本」「私が愛を感じた本」についてお聞かせください。

A:本が好きなのでたくさんの本を読みましたが、
その本の中で目を一番通した本、何度も何度も読んだ本、一番長く読んで印象に残った本を選びました。
考えてみると、どの本にも「尊敬」「信頼」「愛情」要素があるので分類するのが難しいと思いましたが、基準の一つとして、
作者が尊敬に値する「尊敬」のグループと、「信頼」のグループには、太宰治「富嶽百景・走れメロス」(岩波文庫)、
ジェイン・オースティン「高慢と偏見」(中公文庫)、V・E・フランクルの「夜と霧」(みすず書房)と
「それでも人生にイエスと言う」(春秋社)の4冊を「信頼」のグループ、
「愛を説いた人」社会心理学者のエーリッヒ・フロムの著書とモンゴメリー「赤毛のアン」(新潮文庫)を
「愛情」のグループに分類したいと思います。

<尊敬の念を抱いた本>
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「尊敬」のところでは、すごいなと尊敬できる作家さんの本を選びました。
宮脇俊三「最長片道切符」(新潮文庫)は、日本全国を遠回りしながら片道切符でどこまで行けるのかに挑戦したことが書かれています。
鉄道に乗るのは、山登りと同じであって頂上に到着することより、登る途中が楽しいと語っており、
毒にも薬にもならないばかばかしいと思うところに実は楽しみがあると語っている作者に共感しました。
駅に到着したら、その土地の匂いがある、例えば米原駅だと北陸の匂い、山陰地方の駅であればカニの香りがするとか、
それぞれ上手に書かれており、作者の着想に面白さを感じました。
また、特に良いなと感じたところは、明石駅から三宮駅までの車窓の海が綺麗でこんな良い景色はないと作者の宮脇俊三さんが称賛されており、無性に海が見たくなったら自分も電車に乗り、車窓から海を眺めています。
描写や観察の仕方が鋭くとても優れていて、人に理解されようが理解されずとも好きなことを極めていく作者の生きた方に尊敬の念を感じました。

池田香代子「世界がもし100人の村だったら」(マガジンハウス)は、授業でも学生に紹介していますが、
地球上を100人の村だとたとえているところや地球全体に対する愛情も感じますし、
このようなところに着目した作者をすごく尊敬しているのでぜひ読んでほしいと思います。
広い視野をもって客観的に物事をみることがとても必要だと思っています。
地球全体で大学に行ける人は僅か、1人だと書かれています。

トーヴァ・マーティン「ターシャ・テューダのガーデン」(文藝春秋)は、作者は絵本作家でもあり、私も植物が好きなので、
自然と一緒に植物を愛し生きていくところに共感を持ちました。
宮脇俊三さんと同じで自分の好きなことを極めて生きているという生き様をすごく尊敬しています。

ハンナ・アーレント「イェルサレムのアイヒマン」(みすず書房)は、シビアな話ですが、
アイヒマン実験でナチスの戦争裁判の物語です。
アイヒマンは家では子煩悩で良き夫ですが戦争に加担していく道の真実を追求していく骨太な内容で、
ドイツの人が裁かれた戦争裁判の作品です。

城山三郎「落日燃ゆ」(新潮文庫)は、東京裁判で絞首刑になった広田弘毅さんのことをものすごく緻密に取材しています。
作者の城山三郎さんは、大学の教員を経てたくさんのビジネスの本を書かれて活躍されましたが、地味なことも取材されています。
東京裁判で絞首刑になった広田弘毅さんは平和を愛し、清く貧しく美しくという生き方をしていた人物でしたが、
大臣であったため裁判にかけられ、黙して語らず一切弁明せずそのまま刑に服します。
広田弘毅さんの生き方に素晴らしさを感じました。また、パール判事は裁判そのものがおかしい、勝った国が負けた国を裁くのはおかしいと言ったことで、人が人を裁いてよいものなのかを考えさせられる作品でもあります。

ハンナ・アーレント「イェルサレムのアイヒマン」(みすず書房)と城山三郎「落日燃ゆ」(新潮文庫)の2つの作品は、
裁くということをすごく考えさせられる作品であります。
愛情はなにかと考えると、愛とは裁かないもので、人が人を裁くことができないことを理解することが知識であるということを
とても考えさせられました。「敬・信・愛」の分類で考えると、「愛」のグループに分類するのかを悩みましたが、
作者の意図を考えると「愛」の要素ではないと思ったので、
真実を明らかにするために地味なところにコツコツと人生に注いでいる作者の視線に「尊敬」の要素を感じました。

<人を信じようと思った本>
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太宰治は若い頃に憧れた作家で、「走れメロス」(岩波文庫)は、困難を乗り越えながら友達のために走ったと、
とても有名な話なので信頼に値する本だと思います。また、太宰治の「富嶽百景」もとても好きな話で、小説に出てくる月見草の実物を実際に見たいと思い(ほんとうに富士山に月見草が似合うかどうか確認するために)、富士山麓の吉田に出向きました。
宿泊時に民宿の主人と奥さんが私の両隣りに布団を引いて寝てくれたことやとても親切にしてくださったので、
「人情の厚い人たち」だなと感銘を受けましたが、後々よく考えてみると民宿の二人は、自分のことを樹海へ行く女子と認識されていたのではないかということに気づきました。
その後に、東京の三鷹市にある太宰治のお墓参りに行き、そこで太宰治のファンの二人の女性に遭遇し、話をしてみたけど自分とは全く合わない人だと感じ、「所詮、人は一人。独りよがりの私・・・」と青春時代に感じた良き思い出が思い出されました。
太宰治は、文章がとても上手なのでリズム感があり、自分が文章を書くときの勉強になります。
彼の生き方は破滅的ですが、人を虜にする魅力があるので彼の作品はほとんど読みました。おすすめの作家です。

ジェイン・オースティンもすごく好きな作家で、「高慢と偏見」(中公文庫)は、
5人姉妹が登場する話でジェンダーを考えるのにも良い作品です。18世紀末から19世紀初頭頃の話ですが現代に通じるものがあって、
主人公が相手の良いところを見つけて相手を信じていくことにロマンスを感じ、一人の女性の成長していく過程が描かれている物語です。
恋愛模様がドラマチックに書かれていて、家族の問題を考えたりするときに読むのもおすすめです。

V・E・フランクルの「夜と霧」(みすず書房)は、ナチの収容所は美しいものが全くない世界で囚人たちが唯一美しいと思えるものは、
鉄格子の向こうに見える夕日であった。そのような収容所生活を送っていたV・E・フランクルは、強い人が生き残るのではなく、
人の絆を信じていくことで生き延びていく、愛する人といつか必ず会えること願って、人間性を最後まで信じ、
将来の自分の姿を想像し生き残っていく姿に「信頼」の要素を感じた作品です。
また、「それでも人生にイエスと言う」(春秋社)も同じ流れでおすすめです。

<愛を感じた本>
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「愛」というところでは、モンゴメリ「赤毛のアン」(新潮文庫)です。
「君がいないと寂しい」というマシューのアンへの愛情あふれる言葉によってアンを行動させたことや腹心の友ダイアナとの交流の中で、
相手の良いところや長所を認めて肯定していくところに絆を感じていき、愛情とは相手のそのままを受け入れて肯定することや
その人がいないとさみしいと感じる心が人を動かすというところに「愛情」を感じました。
 
エーリッヒフロム「自由からの逃走」(東京創元社)は、エーリッヒフロムの中で一番名著です。
なぜナチズムが起こったのかを分析した作品であり、今の社会に通じるものがある作品ですので、
みなさんにぜひ読んで欲しいと思います。
 
エーリッヒフロム「愛するということ」(紀伊国屋書店)は、愛することは名詞ではなく動詞で、愛することは技術である。
愛することは働くことと通じていて、人を愛することは技術や能力が必要である。愛することは人を幸せにすることの責任もあるし、
愛しているけどその人に対して何もしないことは愛することではない。愛する人の繋がりにも責任をもつことが「愛」だと語っている。
自分の身近な人に愛情を注ぐだけではなく、社会はどうでもいい、自分の属している集団の中の人はどうでもいい、
隣の人はどうでもいいのではなく、身近な人を大事にしたら「愛する」のつながりがずっと広がっていくとも語っています。
エーリッヒフロムは、「愛」とは逆に「悪について」(紀伊國屋書店)も書いており、「愛」知るには、「愛」と「悪」を二冊合わせて
読むことをおすすめします。
また、「精神分析の危機」(東京創元社)は、何回も繰り返し読んだ本で、
フロイトの精神分析を批判しながら社会の分析をしていて、この作品も名著です。

本を読むときは、一冊だけ読むだけではなくて、「愛」を知るためには、「愛すること」(紀伊国屋書店)と
「悪について」(紀伊国屋書店)を読んで、「自由からの逃走」(東京創元社)、
ルーツについて心理学的なことを学びたいと思ったら、「精神分析の危機」(東京創元社)を読むことを
おすすめしています。
そうするとフロイトのこともわかりますし、全体をつかめるのでエーリッヒフロムのことがより一層深く理解できます。


今回、建学の精神をじっくり考えたところ、「敬・信・愛」はそれぞれ繋がっていて切り離せないもので、
3つの要素がそれぞれ作用しながら一つのものなっていることに気づかされました。
建学の精神のお言葉を生み出した創設者の方はすごく立派だなと感じました。
誰かを尊敬するベースには、愛情がないと成り立たないし、感謝の気持ち、いろんな人を平等に尊重してその人の存在を認めることが愛情でもあるし、敬うことにも繋がるし、人を信じることも必要ですし、相手の今後起こりうる行動を良い結果や悪い結果であろうとその人の存在の在り方自体を信じることが大事です。
バランスを極めていくことが知識であり、学問をすることなのかなと感じています。

無知ということが一番怖いので、人間には裁くことができるのか?という問いを立てたり、裁けないという人間の愚かさや限界を知ることの知識を得て、自分を深め、いろんな人と関わり、学びの姿勢をずっと貫いていくことがすごく大事だと改めて気づかされました。

本学の建学の精神はほんとうにすばらしいですね。みなさんにも一度、建学の精神「敬・信・愛」を考えてほしいと思いましたし、
今後も学びの姿勢を貫いて欲しいと強く願っています。

そして、いろいろな本との出会い、人との出会いを大切にしてくださいね。

最後に、今回は本来、図書館の森宗さんのお勧め本のコーナーになる予定でしたが、
私の退職にあたりこのようなよい機会を与えていただきました。心より感謝申し上げます。


<インタヴューを終えて>

今回のインタヴューでは、選書のテーマを建学の精神である「敬・信・愛」の設定で選書のお願いをして選びにくい部分もあり、
難しいと感じられたかもしれませんが、たくさんの素晴らしい本をご紹介してくださいましてありがとうございました。
紹介いただいた本は、青春時代に読んだ本、エーリッヒフロムの著書、愛情についての本、旅行の本、植物の本、
戦争について考えさせられる本、ジャンルは様々ありますがどの本も深みがあって魅力的なのでみなさんにもぜひ読んでほしいと思います。
図書館にも所蔵していますので、借りに来てくださいね。

柏尾先生のインタヴューの中で、建学の精神「敬・信・愛」にも触れられていましたが、
三つの要素がバランスよく作用して一つのものになってゆくといくことを深く認識しました。
学生のみなさんには、「敬・信・愛」のバトンを受け継いで、学びの姿勢を貫き、これからの生活を過ごしてほしいと思います。
そして、平和で楽しい穏やかな世の中がずっと続いていけばいいなと柏尾先生のインタヴューを終えて感じました。

柏尾先生、貴重なインタヴューの時間をありがとうございました。

                                       (聞き手:学術研究委員 図書館 森宗麗子)