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<令和3年度 第1回 図書館リレーインタヴュー 井上博司学長へのインタヴュー>

こんにちは。図書館です。

もうすぐ、前期試験が始まりますね。
図書館には、試験に役立つ資料がそろっていますので、試験に備えるためにも図書館を利用してくださいね。

さて、昨年度に引き続き今年度も、図書館情報を積極的に配信する取り組みとして、
教員のおすすめ本の記事を大学HP上で配信することになりました。

令和3年度の第1回目は、井上博司学長のおすすめ本を紹介いたします。
井上博司学長、図書館リレーインタヴューへのご協力ありがとうございました。
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井上学長のお写真は学長室で撮影させていただきました!


<本のご紹介>

私は他人に本を薦めるということをしていませんので、これは本の推薦文ではありません。人それぞれ当たり前ですが興味関心も違いますし、その時々で自分が読みたいなと思う本を手に取って楽しめばよいと思います。ですから、ここに挙げた本も、みなさんにとってさして面白くないものもあると思いますし、みなさん自身で面白い本を見つけてください。なお、ネタバレのないように気を遣いすぎたので、本の紹介としては内容が薄くなってしまいました。申し訳ありません。

兎の眼 灰谷健次郎 理論社
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この本は大学時代に読んだのですが、当時私は将来教師になることを希望していました。同じく教員志望のゼミの先輩が読んでいて面白そうだったので手に取りました。主人公は新任の女性小学校教師、彼女と担任のクラスの子どもたち、そして彼女たちを取り巻く人々の物語です。子どもを教え育てるということはどういうことか、そして子どもに寄り添うということとは、読む人一人一人に考えさせてくれる一冊だと思います。

幻影(イメジ)の時代 マスコミが製造する事実 ダニエル.J.ブーアスティン 東京創元社
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メディア論・アメリカ大衆文化論の古典に位置づけられる一冊です。マスコミが製造する幻影が社会の現実を覆い、人々はその作り出された疑似イベントに動かされているというのがテーマでした。その状況は現代でもあまり変わらないように思うし、むしろ今日では、SNSにより発信される様々なレベルの情報が、受け取る側に事実(そもそも事実とは何か、という議論はありますが)とは異なる、より多様な疑似イベントを生み出しているのではとも思えます。マスメディアからインターネットメディアへ時代の潮流が移りつつありますが、それらが作り出す幻影に踊らされることないようにしたいものです。

大衆の反逆 オルテガ.イ.ガセット 岩波文庫 他
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この本を読んで自らの行動を振り返ると、「自分は大衆の一員である」ということを自覚させられます。超がつくほどの「上から目線」で徹底的に大衆をこき下ろしているのですが、その指摘するところが的を射ている(すべてとは言いませんが)のは、当時世界一民主的と言われたドイツのワイマール憲法下のナチスの台頭(合法的な選挙で政権を獲得した)などで明らかなように思います。
オルテガのような哲人にはなれっこありませんが、まわりに流されるばかりでなく少しは自分で考える大衆でありたいと思います。

攻撃―悪の自然誌 コンラート.ローレンツ みすず書房
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著者のローレンツは1973年にノーベル医学生理学賞を受賞した動物行動学者です。ただ、彼の「種の保存」にかかる学説は現在では否定的にとらえられているようです。
本書は動物(人間以外の)の闘争(攻撃)行動を観察することにより、攻撃本能のメカニズム(抑制機構を含む)を解き明かしているものです。人間も動物の一つの種であり、攻撃本能から逃れられないものであるならば、攻撃本能は「種の保存」のためであるとする彼の説の方が、現代の主流である「個の保存」のためとする論よりまだ救いがあるようにも思います。
また彼は「刷り込み」の概念を広く一般に紹介したことでも知られています。そちらの方に興味があるなら「ソロモンの指輪」(早川書房)を読むと面白いと思います。


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竜馬が行く 司馬遼太郎 文芸春秋 他
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今さら解説の必要もないと思いますが、坂本龍馬の生涯を描いた司馬遼太郎の代表作です。「生涯を描いた」と記してしまいましたが、本書は坂本龍馬の伝記ではなくあくまで司馬遼太郎の創作です。史実とは異なる部分も多い(彼の果たした役割を過大に描いている)ようで、最近では坂本龍馬についての記述は日本史の教科書から削除すべきという論もあるようです。そのことは逆にこの本が社会に与えた影響(今日の坂本龍馬像を作り上げた)の大きさを物語っている証左だと思います。たとえ創作部分があったとしても、本書に描かれる竜馬像は極めて魅力的で、その生き方には共感を覚えずにはおられません。大作ですが、一気に読了できます。

仕掛人・藤枝梅安 池波正太郎 講談社文庫
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「鬼平犯科帳」、「剣客商売」と並ぶ作者の時代小説の代表作です。何度も映画化やテレビドラマ化されましたが、本作を翻案元としたテレビの時代劇シリーズ「必殺仕掛人」の方がなじみがあるかもしれませんね。
主人公である暗殺を裏家業とする江戸の鍼医者藤枝梅安とその周りの人々の日常が、「暗殺」という非日常と自然に溶け合って物語が進んでいくという独特の世界観が面白くどんどん引き込まれました。
文庫で7巻になりますが、娯楽作で短編も多いので読みやすいと思います。


                                            (学長 井上博司)