大学からのお知らせ

トピックス

<令和3年度 第4回 図書館リレーインタヴュー 心理学科 教授 箱井英寿先生へのインタヴュー>

こんにちは。図書館です!
図書館では、図書館情報を積極的に配信する取り組みとして、
教員のおすすめ本の紹介を大学HPで配信することになりました。
今回は、今年度の4回目の配信となります。
第4回目は、心理学科 教授 箱井英寿先生のおすすめ本を紹介します。
箱井英寿先生、図書館リレーインタヴューへのご協力ありがとうございました。

 <本の紹介>

 学生の皆さんへ
 
 今回、最初にご紹介する2冊は、人の心の不思議を取り上げたものです。
これらの本は、小説のように最初から最後まで読まないとストーリーが分からないといったものではありません。
人の心理を捉えることの難しさに研究者たちがどのように挑戦してきたのか、
どのページからも触れることができることでしょう。
まずは、実際に目次を見て面白そうな見出しのついたページに飛びついてみてはいかがでしょうか。

箱井先生 - コピー.png 

 人の心の状態を知るにはどのようにしたら良いのでしょうか。
そのヒントを得るために、広く心理学の各領域で行われている有名な研究を取りあげた本である
「心は実験できるか 20世紀心理学実験物語」、「心理学を変えた40の研究」を紹介しましょう。
これらの本では、「針金の母親を愛せるか」を検証したハーローのサルの愛情実験や
「どんな気持ちか、顔を見ればすぐに読み取れる!」エクマンらの表情と感情の研究、
メンタルヘルスの専門家に衝撃を与えたローゼンハンの精神医学診断実験、
ピアジェのものの概念の発達、ミルグラムの服従実験をはじめ多彩な研究が取り上げられています。
心理学のひとつの領域・内容の紹介ではなく、知覚、記憶、パーソナリティ、社会、心理療法などの
様々な心理学の領域を代表するインパクトのある研究や研究者が勢ぞろいしています。
それらの中には、現在の研究倫理により再現が難しいような実験も含まれています。
 例えば、私の研究テーマのひとつでもある「人を助ける行動」に関してもこれらの本で取り上げられています。
1964年、ニューヨークで38人の傍観者がいる中で女性が殺害された事件が発生しました。
どうして彼らは被害者を助けなかったのでしょうか。この本の社会心理学領域の部分では、
この事件を契機に「人を助ける行動」について社会心理学者であるダーリーとラタネが
取り組んだ研究成果をわかりやすく紹介しています。困っている人を助けるのはなぜでしょうか。
困っている人を助けるか、助けないかの基準はどのようにして決まるのでしょうか。
また、それは裏返せば、自分自身が困った時に効率よく助けてもらうためのヒントにもなるのではないでしょうか。
この章を読み、皆さんも日常生活の中に潜む人の冷淡さ、温かさについて考えてみてください。

① - コピー.png
ローレン スレイター(著), 岩坂 彰 (翻訳),
心は実験できるか,‎‎ 紀伊國屋書店 ,2005
ロジャー・R. ホック(著), 梶川 達也・ 花村 珠美 (翻訳),
心理学を変えた40の研究―心理学の"常識"はこうして生まれた―,2007

 では、次に心理学領域そのものではありませんが、生き方、思考をめぐるヒントとなる本をみてみましょう。
外山滋比古氏のロングセラーになっている「思考の整理学」をご存知でしょうか。
この本には、「グライダー」や「カクテル」など、どのように思考の整理に繋がるのかと思われるような小見出しがつけられています。
しかし、それらの内容は、「なるほど」このような捉え方もあるのかと思ってしまうものでした。
心理学の各領域にも通じる側面があり、社会・文化レベルの話から身近な取り組みまで、
著者の視点にはまさしく考え方の整理のヒントがちりばめられており、ロングセラーになる理由にもうなずけます。
この本も上記で紹介した心の捉え方や理解に加え、頭の整理を兼ねて読んでみてはいかがでしょうか。

② - コピー.png
外山 滋比古,思考の整理学,ちくま文庫 , 1986

 また、堅苦しく無く論理的な思考と想像力を刺激して人の心理を考えるには、
娯楽要素のある推理小説も良いのではないでしょうか。
刺激的な推理小説は多数あると思いますが、ルポライターであり名探偵でもある浅見光彦が
事件を解決していく内田康夫氏の小説、浅見光彦シリーズは私のお気に入りです。
推理小説だけに詳細な内容まで紹介することは避けますが。
例えば、犯人捜査に乗り出す光彦が警察で事情聴取された際には、
光彦の兄が警察庁刑事局長であると分かるや否や縦割り社会の警察組織にいる警察官たちの手のひら返しの態度変化が
コミカルに演出されています。
このような人間関係における態度変容の側面は社会心理学に関わる興味深いテーマでもあります。
その他、個性的な人物が毎回登場し、犯人をはじめ事件に関わる一人ひとりの心理状態が巧みに描かれ、
光彦の優しさと真実を追究するひたむきさが交差し、時にはテンポよく、時には大胆にストーリー展開され結末へと読者をいざなってくれます。
 本の内容紹介そのものとはずれてしまいますが、このシリーズは、各放送局でTV放映もされており、
オリジナルとのストーリーの違いや各局で主役である浅見光彦役の俳優が異なる点なども含めて映像でも楽しめます。
この浅見光彦シリーズの本も含め内田康夫氏の作品などを展示した浅見光彦記念館も軽井沢に設立されており、
本を片手に名探偵を気取り新たな発見を求めて記念館を訪ねてみるのも良いかもしれません。
③ - コピー.png
日蓮伝説殺人事件(上),
内田 康夫,KADOKAWA/角川文庫,1995
志摩半島殺人事件,
内田 康夫,祥伝社,1992
天河伝説殺人事件(上),
内田 康夫,KADOKAWA/角川文庫,1990

(心理学部 心理学科 教授 箱井英寿)