医療法人清仁会 洛西シミズ病院
リハビリテーション科
言語聴覚士
2019年3月 人間科学部 医療心理学科
言語聴覚専攻 卒業
(現 保健医療学部 言語聴覚学科)
言語聴覚士という職業について、
よく知らない人も多いのではないだろうか。
「言葉を話すことができなくなった人に、
もう一度話せるようにリハビリテーションをする」。
これだけでは、言語聴覚士の仕事を
本当に理解できているとはいえない。
リハビリテーションはもちろんだが、
それ以前に患者さまの想いを汲み取り、
その意思伝達をサポートする。
患者さまのすぐそばで、
その方にとって最適な意思疎通の方法を探り当てる。
きっと誰しも、伝えたいのに伝えられない状況は
ひどくつらいはずだから———。
言語聴覚士としての古谷さんの責任は大きいが、
その声はいつも明るく、温かみを帯びている。
私が働く回復期リハビリテーションセンターの患者さまは、半数以上が脳卒中による後遺症がある方々です。脳卒中の後遺症は、言語・歩行・日常動作と広範囲にわたるケースが多く、それぞれのリハビリテーションが入院期間中に行われます。
「こちらの言うことが、患者さまになかなか伝わらない」。ある日、同じチームの理学療法士が漏らした一言。話を聞いてみると、リハビリテーション中の患者さまに対して次の動作を促すためにかける言葉が何回言っても伝わらず、なかなか進められないと困っていました。その患者さまは高次脳機能障がいによる失語症で、言葉が伝わりづらいのは、聴く・話す・読む・書くといった言語機能に障がいがあるからです。しかし、言語聴覚士として患者さまの状態を探ってみると、耳からの情報伝達は難しくても、目からの情報は比較的理解しやすいようだとわかりました。「この患者さまには文字で伝えたほうが分かりやすいですよ」。私からチームに発信することで、患者さまには紙に書いて伝えることになり、リハビリテーションはスムーズに進むようになりました。患者さまの意思疎通の方法を探り、患者さまとチームやかかわる人々をつなぐこと。その役割の大切さを、日々実感しています。
「失語症の方は、例えるなら言葉のわからない外国にたった一人でいるような状況で、そのつらさは大変なものである」。これは大学時代の恩師、川井先生から授業で教わった言葉です。今、言語聴覚士として、意思疎通ができない不安から少しでも早く解放に導くことができればという気持ちで、患者さまと向き合っています。
嚥下障がいのある患者さまへのリハビリテーションも、言語聴覚士の役割です。嚥下障がいとは、喉や舌の麻痺などで、飲み込む力が弱っている状態のこと。その中でも、食べ飲みしたものや唾液が誤って気管に入ることを誤嚥と言いますが、その結果、肺に雑菌が繁殖して起きる病気が誤嚥性肺炎です。高齢者の場合は生命を落とすケースもあります。嚥下障がいのある患者さまにとって、誤嚥は本当に危険度が高いことなのです。
あるとき回復期リハビリテーションセンターへ入院された患者さまは高齢で症状が重く、チューブによる注入食しか摂取できない状態でした。口から食事をとらなくても口腔には雑菌が繁殖しやすく、清潔に保つためには歯磨きが欠かせません。しかし、歯磨きは唾液が出やすくなるので、一つ間違えれば誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあります。通常、歯磨きは看護師が担当しますが、その際に誤嚥しないよう、ベッドの角度や頭の支え方など注意や手順をこと細かに伝えました。また、毎回同じ看護師が担当するとは限らないので、どの看護師が担当しても大丈夫なように、その患者さまの歯磨きケアの注意点を書いた張り紙を作成し、徹底をお願いしました。責任を持ってやり抜くことで、患者さまをリスクから守ることができたと思っています。
多くの患者さまと接する上で、どのように対応するべきか悩むこともあります。そんなときは言語聴覚士の先輩に相談します。受け持ちの患者さまについて相談したとき、「その方が退院してからどうやって生活していくか、考えている?」と問いかけられました。退院されても、病気になる前のように体が動くとは限りません。釣りやバイクなど、これまでの趣味ができなくなる方もいらっしゃいます。せっかく退院しても、何もすることがないのは辛いこと。リハビリテーションをしている段階から、これからできるような趣味を一緒に見つけていくことも大事だと先輩から教わりました。
患者さまやご家族の希望が叶うようにリハビリテーションを重ね、一日も早く達成感や満足感と共に退院していただく。それが一番の願いです。そのために、言語聴覚士としてできる支援を精一杯続けていきます。
/ 支援チームの方々が語る古谷さん
いつも明るく元気。笑顔もよくて、チーム内の評判もいい古谷さん。まさに愛されキャラです。そして仕事面でも優秀で、普段から専門分野についてよく勉強されていて、頼もしい後輩です。
言語聴覚士を志したのは、高校時代のケガでリハビリテーションを受けたことがきっかけ。つらいときに支えてもらった経験から、自分も誰かを支えたいと思い、当時TVドラマで知った言語聴覚士の仕事に興味を持ったとのこと。大阪人間科学大学を選んだ理由は、オープンキャンパスで出会った先輩が話しやすかったことに加え、先生から「勉強をしっかりしないと国家試験には受からない」と、はっきり言われたことが決め手に。本気で目指すなら、甘やかされない環境で学ぼうと強く決意したそうです。
古谷さんは、1年目から知識をしっかり身に付けていました。
また、患者さまについての相談を受けたとき「古谷さんはどう考えているの?」と聞いたら、自分の意見をまとめて答えて、しっかり自分の考えを持っているのが印象的でした。今の古谷さんのペースで、ひたむきに頑張っていってほしいです。