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<令和5年度 第1回 図書館リレーインタヴュー 社会福祉学科 准教授 吉池毅先生へのインタヴュー>
こんにちは!大阪人間科学大学図書館です。
今年の夏は、とても暑い日が続いていますが、皆さん、元気に過ごされていますか。
暑いですが、夏を満喫してくださいね。
図書館では、図書館情報を積極的に配信する取組として、
教員のおすすめ本の紹介を大学HPで配信することになりました!
今回は、今年度の第1回目の配信となります。
第1回目は、社会福祉学科 准教授 吉池毅志先生のおすすめ本と映画を紹介します。
吉池毅志先生、図書館リレーインタヴューへのご協力ありがとうございました。
学生のみなさんへ
精神科病院でソーシャルワーカーとして働いていた頃、「NEWS23」という報道番組で筑紫哲也さんというジャーナリストを知り、その視点の奥深い所にあるものに共感して、今で言う「推し」のように言動を追いかけていたことがありました。社会の犠牲者から見据える眼差しを持ちつつ、リアルな社会を動かしている人たち(首相、ミュージシャン、海外の要人、作家…)と対談する姿を観て、とても影響を受けました。紹介される本を読み、紹介される作品を観に映画館へ行き、話を聞きに会いに行ったりしたこともありました。
2年ぶりとなる今回は、一人のジャーナリストをきっかけとして出会ってきた作品や、そこから連鎖して出会ってきた作品をご紹介します。
OKINAWA
筑紫さんは、沖縄が日本に「返還」される時代に、那覇から連日報道されていた方で、「沖縄に暮らす人々からの視点」を大切にされていたことで知られています。6月になると沖縄戦の歴史がNEWS23で扱われていて、たまたま戦没者追悼式の時期に那覇を訪れた際、ホテルの目の前から番組が中継されていたこともありました。
番組を通じて、沖縄戦で県に暮らす4人に1人が亡くなったことをわたしは知り、沖縄の本をいろいろと読むようになりました。『写真証言 沖縄戦「集団自決」を生きる』は、沖縄戦を生き延びた人々へのインタビューがまとめられた本です。戦争を経験していないわたしには、「平和」は漠然としたものでしたが、ある人の語りの中にあった、「泣き止まない我が子を、自分の手で殺めました」という言葉の重さに、涙が止まらなくなりました。歴史を「悲しむ」ことを人類としてちゃんとし続けなければ、今ある「平和」は守れないと思いました。
筑紫さんの親交はとても広く、作家の灰谷健次郎さんもその一人です。『太陽の子』は、尼崎の下町を舞台に、小学生の「ふうちゃん」が、家族や地元の人とたくましく優しく育っていく物語です。物語のなかで、「お父さん」が沖縄戦を経験して生き延びた人であることが、少しずつ描かれていきます。戦争が終わって何十年も経っていても、深く刻まれたこころの傷が大きく、その戦争トラウマに苦しんでいることが、静かに、優しく描かれているのが印象的です。素晴らしいのは、個人への精神科治療による回復の物語ではなく、様々な背景をもつ人々が、共に育み合い生きていく、コミュニティ・メンタルヘルスとしてのリカバリーが描かれている点で、今読んでも色褪せない作品だと思います。
MINAMATA
筑紫哲也さんは、作家の石牟礼道子さんや写真家のユージン・スミスさんについて、しばしば紹介されていました。ユージン・スミスさんは水俣病の現実を写真で世界に知らしめた人です。かつてLIFE誌で戦禍を世界に伝えていた著名な写真家は、水俣に住み、水俣の人々と歩み、水俣で負った負傷によって人生を終えています。その生き様に感銘を受けたのが、世界的ハリウッドスターのジョニー・デップさんです。ジョニー・デップさんは、自身がプロデューサーと主演を兼ねて『MINAMATA』という映画史に残る作品を製作しました。人との出会いで心を動かされた写真家、その写真家の姿によって心を動かされた俳優。心が動く連鎖によって生まれたこの作品は、観る者の心をも動かします。作品の最後には、深刻な公害問題が過去のものではなく、今も途上国で繰り返されている水銀公害の現実に警鐘を鳴らしています。
水俣の海に暮らす人々を描いた石牟礼道子さんの代表作『苦海浄土』は、海辺に暮らす漁民の人々の穏やかで美しい暮らしの描写が秀逸です。港の猫たちが「踊り猫病」と言われる奇妙な姿を見せ始め、少しずつ漁村の風景が変わっていき、ついには全てが変貌していく様を、石牟礼さんは丁寧に、かつ怒りを込めて書き上げました。芥川賞の選考委員も務めた作家の池澤夏樹さんは、河出書房による企画「世界文学全集」の編者として世界文学を30巻に編集し、日本の作家による一冊を選ぶに当たり、この『苦海浄土』を選びました。3・11後の日本を生きるわたしたちは、その意味の深さを考えさせられます。
IRAQ
『しあわせなときの地図』というスペインの絵本は、戦争のために生まれ育った大好きな街を出ていかなくてはならないソエという女の子が、町を出て行く前に、町の地図を広げて、楽しいことがあった記憶を描いていくという物語です。この本と通じるのが、池澤夏樹さんによる『イラクの小さな橋を渡って』という小さな紀行文です。この本を開くと、イラクに暮らす人々の色彩に満ちた生活の息遣いが、多数の写真によって伝わってきます。池澤さんは「イラクが失われる前に」との思いで、戦争が始まる前のイラクを急いで訪れて、この本を世に出しました。後に戦禍によって失われてしまった美しい風景写真を見つめていると、何を守ることが大切なのかが分かってきます。
映像作家の渡井健陽さんは、イラクの市民と共に暮らしながら、映画『Little Birds イラク戦火の家族たち』という作品を、市民の視点で記録しました。タイトルの「Little Birds」は、爆撃によってかけがえのない命を落とした3人の子どもを意味しています。
TOKYO
村上春樹さんの『アンダーグラウンド』は、他の村上作品とは一線を画す、村上春樹さん自身による多数の人々へのインタビューをまとめた異例の一冊です。阪神淡路大震災のあった1995年、その3か月後に、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生しました。村上さんは、その日地下鉄に居合わせた様々な人々に聴き取りを重ねています。いつものように出勤していた人々に何が起きたのかが克明に、そして、一人ひとりの人生に何をもたらしたのかが書き記されています。昨年話題となった、社会学者の岸正彦さんによる『東京の生活史』は、東京という街に暮らす研究者でもない150人が聴き手となり、この街に暮らす150人のそれぞれの生活を聴き書きした稀有な本です。
一人に一つの人生があり、それぞれの人生が人類史の断片となっているということ。作家も、写真家も映画監督もジャーナリストも、名もない人々の生活を「歴史的存在」として掬い取り、人々に伝え後世に残そうとして作品やメッセージを発信しました。一人の生活者の存在を社会的にとらえて支える、ソーシャルワーカーを目指す学生のみなさんはもちろん、あたらしい時代の担い手となる大学生のみなさんには、今年も心が動く作品とたくさん出会ってほしいと思います。
図書館リレーインタヴューの最後は、吉池毅志先生の直近のご著書を紹介いたします。
「精神医療」は精神医療に関わる分野の関連事項を特集して発行されている学術雑誌です。図書館では、2021年発行の第1号から購読しています。
吉池毅志先生は、「精神医療」第9号の責任編集をされております。
「精神医療」第9号の特集は、精神福祉法改正2022です。
精神福祉法改正についての内容が中心なっておりますが、多くの問題を抱えているわが国の精神保健福祉法の現状と今後について複数の視点からの議論の内容になっています。精神福祉法改正について学ぶ最適な資料となっているので、関連分野を学ぶ学生の皆さんは資料を手に取ってみてくださいね。
また、今回、吉池先生が紹介された本は本学の図書館にも所蔵しているので、図書館で借りて読んでくださいね。