大学からのお知らせ

<令和6年度 第2回 図書館リレーインタビュー 作業療法学科 教授 石川健二先生へのインタビュー>

2025.1.7
Topics

こんにちは!大阪人間科学大学図書館です。

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年も実りある一年になるよう頑張っていきましょう。

図書館では、図書館情報を積極的に配信する取組として、教員のおすすめ本の紹介を大学HPで配信しております。
今回は作業療法学科 石川健二先生に5冊の本を紹介していただきました。


  • 『リカバリー―希望をもたらすエンパワーメントモデル』
    カタナ・ブラウン編
    坂本明子監訳
    金剛出版
  • 『ストレングスモデル ―リカバリー志向の精神保健福祉サービスー』
    チャールズAラップ著
    田中英樹監訳
    金剛出版

 障がい福祉のなかで、リカバリー、ストレングス ピアサポートといった「強みを活かす生き方」が提唱されており、この考え方の発端となった要因の一つに本書の存在があるといえます。PEディーガン博士の壮絶なリカバリーストーリーは、特に象徴的です。18歳のときに統合失調症と診断され、踠き苦しみながら自分のような烙印を押された人々に寄り添えるのは、同じ体験をもつ自分しかいないと考え「誰をも傷つけないメンタルヘルス組織をつくろう」と決心します。自身の往く末は自分で決めるというリカバリー過程の本質が描かれています。苦悩しながらも夢を持ち続けることの大切さを教えてくれる一説です。
 スーザンマークの論文では、精神の病を抱えた1人の作業療法士としての在り方を説いています。彼女はリカバリーの道を発見(ディスカバリー)であるとし、弱さや困難さに出会ったときも、真の素質や才能(ストレングス)をみつけながら、意義のある活動に参加する姿は、目的をもった人生を歩むために、積極的に生きる道を拓く力を与えてくれます。私たちと彼らという境界(バウンドリー)を克服しながら、ピアスタッフとの生き様が詳細に記されています。本書は医療従事者にとっても価値ある1冊となり得ます。
 続編ともいえる「ストレングスモデル」には、リカバリーとの関係を増補する実践テキストとして、心に留める秀作が詰まっており、こちらもお勧めです!

  • 『神様のカルテ』
    夏川草介著
    小学館

 この本を読み終えた後は、誰もが清々しい気分になれる一冊です。物語は漱石の「草枕」を愛読し、何事にも一途で不器用なところのある“一止”という、若い医師が主人公です。一止の周囲には少しクセのある医師らが登場しますが、妻やその仲間に支えられながら患者さんに対して、丁寧に接している一止の姿に親しみを感じました。
 著者の作品は地域医療での経験が作風に生かされているようです。私も以前、但馬での地域リハビリに従事した時期があり、対象者との距離感に共感する部分が多々ありました。本作はシリーズ化されており、どの編からでも入り込める内容となっています。

  • 『通り過ぎゆく者』
    コーマック・マッカーシー著
    黒原敏行訳
    早川書房
  • 『ステラ・マリス』
    コーマック・マッカーシー著
    黒原敏行訳
    早川書房

 本作品は、善と悪、生命の儚さ、人間の本性をテーマとしながら、圧倒的で流浪や犯罪、残酷なまでの自然の中における人間の孤独を表現し、厳しい道徳的探求、詩的で巧みな幻覚描写の世界観が特徴的です。物語は、かつて物理学者を志すが、過去のトラウマによって人生の目的を失った海洋救助ダイバーが主人公。
 海底に墜落した飛行機の捜索任務で、失踪した乗客や不自然な痕跡に直面し、陰謀に巻き込まれるストーリーを軸に、妹のアリシアは天才的な数学者でありながら、精神的な病に苦しみ、自身の幻覚と対峙する。一方で父はオッペンハイマーと共にマンハッタン計画を目論んだ一人として、錆色化したヒロシマに懺悔の人生を捧げた。アメリカ作家マッカーシーの独特な無駄のない対話による登場人物の内在的表現が、兎に角凄い、ということ。読者に解釈の余地を与えてくれます。
 本作の続編で、アリシアが精神の実体の存在に抗いながら受け入れようとする葛藤を主治医との対話のみで構成された、著者の遺作「ステラ・マリス」もお薦めです。

                                 文:作業療法学科 石川健二先生

  • 石川健二先生、リレーインタビューへのご協力ありがとうございました!
一覧に戻る